東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)230号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 請求の原因四1について
(一) 原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証(引用例)によれば、同号証には、引用考案の目的、構成及び効果について、次のとおりの記載があることが認められる。
(1) 目的
本考案は光伝送用媒体にグラスフアイバーを用いた光伝送用線路に関し、その目的は引張り強度の強い光伝送用線路を提供することを目的とする。従来のこの種の光伝送用線路は直線状のグラスフアイバーの周りに、プラスチツク等の被覆層を設けてなるものであつた。このため、この線路の布設時あるいは他の作業中に、伸びのほとんどないグラスフアイバーにのみ外力が加わり、グラスフアイバーが断線することがあつた。本考案はかかる点に鑑みなされたもので、たるみを有するグラスフアイバーの周りに、被覆層を設けてなる光伝送用線路である。(明細書一頁七行ないし一八行)
(2) 構成
以下本考案の実施例を図示した第1~2図によつて説明する。1はら旋状あるいは波形等にたるみを設けたグラスフアイバー、2はたるみを有するグラスフアイバー―の周りに設けたプラスチツク等の被覆層である。(同一頁一九行ないし二頁三行)
(3) 効果
本考案は上述のように、たるみを有するグラスフアイバーの周りに、被覆層を設けてなる光伝送用線路であるため、ケーブルの布設時あるいは他の作業中に加わる外力は、被覆層のみに加わり、グラスフアイバーには加わらないので、伸びのほとんどないグラスフアイバーでも断線することがなく、安定した光通信を行なうことができるすぐれた効果がある。(同二頁四行ないし一一行)
以上の記載があることが認められ、右事実及び前掲甲第六号証の第1図によれば、引用考案は、
<1> グラスフアイバーを用いた光伝送用線路において、外力が加わつても、グラスフアイバーが断線しないようにすることをその技術的解決課題とすること、
<2> グラスフアイバーには、ら旋状あるいは波形等のたるみをもたせ、その周りにプラスチツク等の被覆層を設けた構成としたこと、
<3> 右光伝送用線路は、このような構成を有することにより、布設時あるいは他の作業中に外力が作用しても、該外力は被覆層にのみ加わり、グラスフアイバーには加わらないので、グラスフアイバーは断線することがなく、安定した光通信を行うことができる効果を奏することが認められる。右認定に反する証拠はない。
そうすると、引用例には、「たるみを有するグラスフアイバーの周りにプラスチツク等の被覆層を設けた光伝送用線路、ならびに、該線路の布設時あるいは他の作業中に加わる外力は、被覆層にのみ加わり、グラスフアイバーには加わらないので、伸びのほとんどないグラスフアイバーでも断線することがなく、安定した光通信を行うことができる効果を有する考案」が記載されているものと認めるとした本件審決の認定判断に誤りは認められない。
(二) 原告は、引用例における「たるみ」とは、引用例の第1図、第2図に縦断面図として示される「波形曲線状」のみを表現した用語である旨主張するが、前掲甲第六号証によれば、引用例で用いられている「たるみ」という用語は、引用考案のグラスフアイバーの構成を表す用語であつて、引用考案の、グラスフアイバーをら旋状あるいは波形等に形成することによつて、グラスフアイバーをその長さ方向にゆるみをもたせた構成をいうものであり、引用例の第1図及び第2図は、その実施例を示したものであることが認められるから、引用例における「たるみ」が「波形曲線状」であることを表現した用語とはいえず、したがつて、原告の右主張は採用できない。
(三) また、原告は、引用例には、グラスフアイバーの「たるみ」の特別の効果は明確には説明されていない旨主張するが、前記認定事実によれば、前記1(一)(3)の記載の効果がグラスフアイバーに「たるみ」をもたせたことにより奏せられる効果であることが認められるから、引用例には「たるみ」の特別の効果が明確に説明されていないとはいえず、原告の右主張は採用できない。また、原告は、引用例の第1図の場合は、波形のグラスフアイバー1が波形屈曲の各頂点部においてプラスチツク管2に衝合拘束されており、たるみが自由度を有していないとして、そのことを理由に本件審決の「外力は被覆層のみに加わり、グラスフアイバーには加わらないので、伸びのほとんどないグラスフアイバーでも断線することがない」旨の判断が正確でない旨主張する。なるほど、前掲甲第六号証によれば、引用例の第1図には、たるみを有するグラスフアイバー1の波形屈曲の各頂点部が被覆層2の内壁に接触した状態に記載されていることが認められるが、右第1図は製作図面ではなく略図にすぎないことは前掲甲第六号証から明らかであり、前記認定の引用例の目的、構成及び効果の記載に照らすと、右第1図の場合において、原告が主張するように、波形のグラスフアイバー1が波形屈曲の各頂点部においてプラスチツク管2に衝合拘束され、たるみが自由度を有していないとは断じ難いのである。したがつて、引用例の第1図の記載が原告の右主張の根拠とはなり得ないので、原告の右主張は採用することができない。なお、原告は、引用例の第2図に基づく主張をするが、引用例の第2図によつても前記1(一)においてした認定判断に影響を及ぼすものとは認められないから、原告の引用例の第2図に基づく主張も採用できない。
(四) よつて、請求の原因四1は採用できない。
2 請求の原因四2について
(一) 次に、原告は、引用考案には、本願発明における、「光フアイバー束がひずみ受容管内にゆるく配置されること、ひずみ受容管内に収容される光フアイバー束の部分がひずみ受容管の長さよりも長くされること、ひずみ受容管を真直ぐにした場合光フアイバー束はひずみ受容管内でうねつた状態をなして存在すること」の各構成及び「光フアイバー束について、ひずみ受容管の曲げにともなう長さの変動が補償されること、それにより光フアイバー束は折損を招く可能性のある応力から完全に解放されること」の効果はみられないので、本件審決は、本願発明と引用考案との間に存する相違点を看過誤認しているとし、本件審決の、「与えられた長さの単一のひずみ受容管にかこまれた空間内に少なくとも一部分が当該空間の一部だけを占める如く配置した光フアイバーからなる通信ケーブルであつて、前記ひずみ受容管にかこまれた前記空間内に配置された光フアイバーの前記部分の長さを少なくとも前記管を真直ぐにした場合は前記管の長さより長いものとし、これにより光フアイバーの前記部分を前記空間内でうねらせ、前記管の曲げにともなう管の長さの変動を補償できるようにした点において両者は一致する」とした一致点の認定判断を誤りであると主張する。
そこで検討するに、前記当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明が原告主張の右構成からなるものであることが認められ、本願発明が原告主張の右効果を奏することは当事者間に争いがない。
しかしながら、既に1(一)において認定判断したところによれば、引用考案のグラスフアイバーは、たるみを有するものであるから、伸び切つた状態で被覆層の長さと比較すれば、グラスフアイバーの長さが長くなるのは自明のことであり、更に、前掲甲第六号証によれば、引用例の実施例の第1図のものは、被覆層(本願考案のひずみ受容管に相当する。)内にゆるく配置されていることが認められるから、引用考案のら旋状あるいは波形等のたるみを有するグラスフアイバーは、管状の被覆層内でうねりを生じるものと認められ、したがつて、引用考案においても、光フアイバーは、管状の被覆層の曲げにともなう管の長さの変動が補償され、それにより光フアイバーは折損を招く可能性のある応力から完全に解放される効果を当然奏するものと認められる。してみると、本件審決には、前記本願発明と引用考案との一致点の認定判断に誤りはなく、原告主張の相違点の看過誤認はないから、原告の前記主張は採用できない。
(二) また、原告は、本願発明は光フアイバー束についてひずみ受容管の曲げにともなう長さの変動を補償でき、ひいては光フアイバー束は折損を招くかもしれない応力から完全に解放される効果を達成することを技術的解決課題としているもので、引用考案の、光伝送用線路に長さ方向の張力が加えられたときグラスフアイバー1とプラスチツク2に張力が分担され、分担の結果グラスフアイバー1に対する張力が全張力に比し軽減されるからその分だけグラスフアイバー1の負担が軽減される効果を達成することを技術的解決課題としているのとは全く相違する旨主張する。
前掲甲第三号証によれば、本願発明は、「ケーブルの屈曲または引込みの際に光フアイバーを折損する危険を最も小さくした光フアイバー入りケーブルの構造を提供すること」(甲第三号証一頁二欄一〇行ないし一三行)を技術的解決課題としていることが認められるところ、前記二1(一)<1>に認定したとおり、引用考案は、グラスフアイバーを用いた光伝送用線路において、外力が加わつても、グラスフアイバーが断線しないようにすることを技術的解決課題としているのであるから、本願発明と引用考案とは、光フアイバー入りケーブル(光フアイバーを用いた光伝送用線路)において外力が加わつても光フアイバー(グラスフアイバー)が折損しないようにすることを技術的解決課題としている点で軌を一にするということができる。したがつて、本願発明と引用考案とでは技術的解決課題が全く相違する旨の前記原告の主張は採用できない。
(三) よつて、本件審決には、本願発明と引用考案との間に存する相違点の看過誤認はなく、請求の原因四2は採用できない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
「与えられた長さの単一のひずみ受容管にかこまれた空間内に少くとも一部分が当該空間の一部だけを占める如く配置した光フアイバーの束からなる通信ケーブルであつて、前記ひずみ受容管(2)にかこまれた前記空間(3)内に配置された光フアイバー束(1)の前記部分の長さを少くとも前記管(2)を真直ぐにした場合は前記管(2)の長さよりも長いものとし、これにより光フアイバー束の前記部分を前記空間(3)内でうねらせ、前記管(2)の曲げにともなう管の長さの変動を補償できるようにすると共に、光フアイバー束の断面積を前記空間の断面積の二〇%未満とし、かような断面積の差があることおよび光フアイバーの長さが長いことにより光フアイバー束はケーブル使用の間に大きな振幅でうねることができるようにし、かつ前記管(2)には内部補強部体(4)を設けてケーブルの屈曲または引込みの際に光フアイバー束が折損する危険をさらに軽減したことを特徴とする通信ケーブル」(別紙(一)参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙(一)
<省略>
別紙(二)
<省略>
<省略>